ピロリ菌についてQ&A |
胃潰瘍を繰り返しております。知人に一度ピロリ菌の検査を勧められました。ピロリ菌とはどんな細菌なのでしょうか? |
経口により感染する細菌で、胃に様々な障害を与えると言われております。従来、胃酸の強い強酸下で、細菌は棲息できないと考えられていました。しかし、この細菌自体の持つウレアーゼという酵素が、胃内の尿素を分解して作るアンモニアによりその酸を中和して、胃の中で棲息していく条件を整えています。この細菌、正式名称をヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)といい、らせん状(ヘリコ)の細菌(バクター)で、胃の出口付近の幽門部(ピロリ)に好んで住み着くため、この名が付けられました。大きさは約3μmで、4〜7本の鞭毛(べんもう)を持ち、この鞭毛により活発に動き、胃粘膜を覆っている粘液層の中に潜り込み、粘膜の表面にくっついたり、細胞の間に入り込んで増殖し、胃粘膜に色々な障害を与えるのです。 <ピロリ菌の走査顕微鏡像> |
胃カメラの検査を受けたところ、十二指腸潰瘍の診断でしたが、胃の中にピロリ菌もいると言われました。ピロリ菌が、胃の中にいるとどんな病気が起こるのですか? |
胃炎や消化性潰瘍(胃・十二指腸潰瘍)の原因として重要な役割を果たしていることが明らかとなっています。 ピロリ菌が胃粘膜にくっつくと、様々な機序により胃炎が形成されます。ピロリ菌自体が産生する毒素(サイトトキシン)による直接の粘膜障害もありますが、一般的にピロリ菌が付着した場所に、白血球などの炎症細胞やリンパ球などの免疫担当細胞が、この菌を排除しようとして集まってきて炎症を引き起こすと考えた方がよいでしょう。 消化性潰瘍に関しては、この菌による発生機序が未だ完全には解明されておりません。しかし、胃潰瘍患者の65〜80%、十二指腸潰瘍の90%以上にこの菌が証明されており、この菌の治療(除菌)により、潰瘍の治癒や再発頻度の低下が見られるなど、潰瘍の原因として大きく関わっていると考えられています。 しかし、潰瘍に限ってみても、この菌が存在するする人の20%以下しか潰瘍の発生が見られないと言う事実もあり、やはりいくつかの因子、例えばストレス、薬剤などが相互に関わり合っているのではないかとも推定され、まだまだ検討を要する項目は沢山あるようです。 |
父が早期胃癌と診断され、内視鏡で手術を受ける予定です。新聞で、ピロリ菌が癌の原因にもなると読んだ記憶があります。本当でしょうか?父の場合、ピロリ菌も調べた方がよいのでしょうか? |
ピロリ菌と胃癌の発生に関して、1994年WHOが「ヘリコバクター・ピロリは、確実な発癌物質(definite carcinogen)である」と認定しています。これは疫学的研究の結果に基づいており、ピロリ菌感染者では、ピロリ菌(−)の群に比べ、約6倍のの発生リスクとなるという報告もあります。また最近では、日本の研究者が、動物(スナネズミ)にピロリ菌を感染させ、発癌を確認した論文も発表されています。 今まで胃癌の発生母地の一つと考えられていた萎縮性胃炎が、ピロリ菌感染と大きく関与している事実が明らかになり、またピロリ菌自体の発癌作用(あるいは発癌促進作用)の両面から発癌機序の検討がなされています。 癌が心配で何でもかんでもピロリ菌を調べようとするとかなりの混乱が起きそうで勧められませんが、少なくとも早期胃癌でピロリ菌(+)の場合は、術後にピロリ菌の除菌で再発を抑制できる可能性もありますので、検討する余地はあると思います。 |
長い間、胃潰瘍の薬を飲み続けています。医者に今度再発したらピロリ菌の治療をしましょうと言われました。ピロリ菌の治療はどのようにするのですか? |
日本ヘリコバクター学会では、2000年6月に「診断と治療のガイドラインを公表し、「ヘリコバクターピロリ陽性の胃潰瘍・十二指腸潰瘍はすべて除菌治療の適応となる」と提言しました。 その後承認された除菌療法は、 胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ・インヒビター)に加えて抗生物質の2剤(アモキシシリンとクラリスロマイシン)の3剤を同時に1日2回7日間経口投与する方法です。 学会の資料によりますと、この3剤併用療法で、胃潰瘍87.5%、十二指腸潰瘍91.1%の高い除菌率が得られています。 もちろんヘリコバクター・ピロリ陽性の胃潰瘍または十二指腸潰瘍のみが適応疾患で、ヘリコバクターピロリが検出されない場合は適応ではありませんし、ヘリコバクター・ピロリ陽性の胃炎や他の疾患でも保険上は認められません。 なお、この除菌治療では、抗生物質による腸管刺激作用と腸内細菌叢のバランスの崩れなどにより、下痢を起こす頻度が比較的多く見られます。軟便となったり軽度の下痢では、継続服用を考えた方がよいと思われますが、下痢が悪化した場合や、発熱や腹痛を伴ったり、血便や粘液便を見た場合は、中止と治療が必要ですので速やかに主治医と相談することが大事です。 また、抗生物質にアレルギーのある方は治療でませんし、ある種の薬剤を服用中の方も、原則禁忌となる場合がありますので、主治医に確かめてください。 |
今回で3度目の十二指腸潰瘍です。主治医にピロリ菌のことを訊ねたところ、うちでは検査をできないと言われました。ピロリ菌の検査方法と検査のできる施設を教えて下さい。 |
内視鏡(胃カメラ)を使用する方法と使用しないで検査する方法があります。 内視鏡で検査する場合、胃の組織を採取(生検)して、 (1)ピロリ菌を培養する培養法、 (2)組織標本を染色して顕微鏡でピロリ菌を探す組織鏡検法、 (3)ピロリ菌のもつウレアーゼ酵素活性を利用して、発生したアンモニアによる試薬のpH変化で間接的に証明する迅速ウレアーゼ試験があります。 内視鏡を用いないで行う方法には、 (4)血液や尿中のピロリ菌に対する抗体を測定する抗H.p抗体法と (5)ウレアーゼが尿素をアンモニアと炭酸ガスに分解することを利用して、13Cで標識した尿素を服用後の呼気中13C標識二酸化炭素を調べる尿素呼気試験があります。 ピロリ菌の検査は、消化器科のある総合病院では多くの施設で可能だと思います。 |
1歳5ヶ月の息子が胃潰瘍で吐血しました。小児でのピロリ菌感染の報告はあるのでしょうか? |
小児のピロリ菌感染率は、発展途上国に比べ低い感染率ですが、もちろん感染はあります。血清抗体による調査では、1〜5歳で10%前後、10歳の小児で15〜20%前後です。また、小児の胃潰瘍ではピロリ菌の陽性率は約50%で、潰瘍の主因とは断定できず、成人とはやや異なるといわれています。これは、成人の胃潰瘍発生には胃粘膜萎縮が重要で、感染期間の短い小児では潰瘍が出現しにくいのが原因かとも考えられています。ピロリ菌の除菌法は、小児でも成人と同じく三剤併用療法が一般的ですが、適応および用量も含めてやはり専門医と相談すべきです。 |
関連サイトへのリンク |
ピロリ菌のページ (タケダ薬品工業) |