喘息といわれたら

Q 喘息(ぜんそく)ってなんですか?

A 喘息の発作とは、あるとき突然に起こる「呼吸困難」の症状です。一言で言えば、呼吸がしにくい、スムーズに呼吸ができず、努力して呼吸をしなければならない状態のことです。喘息の発作が起こると、それまで特に目立った症状も病気らしい様子もなかった子どもが、突然ゼーゼー、ヒューヒューという笛のような呼吸音をたてるようになります。特に夜間に悪化するのが特徴です。
 このような発作は「かぜ」がきっかけになることが多く、頻繁に起こらなければ「気管支が弱い」とか「喘息様気管支炎」と言われます。このような発作が繰り返し起こってくるようになったときはじめて喘息と診断されるようになります。

Q 小児喘息は、いつ頃発病するのですか?またいつ頃治っていくのですか?
A 生後6ヶ月頃からぼつぼつ発生します。しかし、乳児期の喘息は呼吸困難がはっきりせず、かぜを伴うことが多いためゼーゼーの強い気管支炎と診断される傾向があります。生後9ヶ月頃よりはっきりした症状を現すものが多くなってきます。一番発症しやすい年令は1〜3才で、5才までに多くは発病します。
 一方、小学校入学くらいには発作の重症度、頻度とも改善していき、小児の喘息の約70%が17 、18才までに治癒しますが、残りは成人にまで持ち越します。
Q 小児喘息はアレルギーですか?
A 赤ちゃんや子どもに起こる喘息の少なくとも60〜70%はアレルギーが関与しています。原因の筆頭にあがるものは何といってもダニです。他にハウスダスト、動物の毛やフケ、そば殻などの吸入性アレルゲン、また卵や、牛乳、大豆などの食物性アレルゲンがあります。
 ときにアレルギー以外の原因による発作のこともあります。また、明らかにアトピー体質で、アレルギーによる喘息発作を起こしたことのある子どもにも、次のような場合があります。
 例をあげると、走ったあとや、うんと叱られたり興奮したとき、冷たい風に当たったとたん、あるいは周囲の人のタバコの煙を吸ったときなどです。アトピー体質であっても、こうしたアレルギー反応以外の増悪因子もあることを忘れないで下さい。
Q 大人の喘息について教えて下さい。
A 一口に喘息といっても、発病の原因から表のようにアトピー型、感染型、混合型の3つに分類されます。アトピー型は、その名のとおりアトピー素因のある人にみられ、発作の原因となるものが、はっきりしています。すなわちアレルギーの関与が明らかなものです。それに対して、感染型は喘息の発作の原因となるものが明らかでなく、かぜをひいたり気管支炎のような気道の感染をきっかけとして発作を起こすものです。成人では壮年期以降に発病する場合、感染型喘息に属する場合が多いと言えます。しかしこのような場合でもアレルギーがベースに存在している場合もあるので注意が必要です。
Q 小児喘息の予防について教えて下さい。
A 喘息ではかぜひきの後に発作が始まるものが多いものです。したがって、かぜをひきにくいように日頃から体を鍛えておくことが必要です。乾布まさつや冷水まさつ、薄着で四季を通すことも発作予防に大切です。
 運動時に喘息発作が起こりやすいものですが、このような場合、日頃、運動に親しんでおくと運動をしても発作が起こらなくなります。水泳が特に好ましいです。
 患児のまわりではできるだけガス、灯油など火を使うことは避けた方が賢明です。大気汚染は発作を起こしやすくするからです。
 また部屋の換気を頻回にしたり、掃除機でまめに掃除することも大切です。
Q うちの子の喘息の原因はダニであるといわれました。どうすればダニ退治ができますか?
A  喘息の原因になる主なダニはコナヒョウダニとヤケヒョウダニです。ダニは摂氏25度の温度と60%以上の湿度環境がもっとも適しており、この条件下ではめざましい繁殖をみせます。生活環境の改善にともない一年中ダニは棲息しますが5月から8月頃が最も繁殖しやすい季節と言えます。
 喘息の直接の原因となるのは、棲息しているダニそのものというより、ダニの死骸や糞であり、家の掃除、ふとんの出し入れなどで空気中に飛び散り、それを吸入して発作が起こると考えられています。
 夏から秋にかけて死骸が増え、秋の喘息発作につながるのです。
さあ、いくつチェックできるかな?
ダニ駆除剤を用いる
一日一回はお掃除タイム
掃除機の排気に含まれる塵挨を室内で再循環させない。エアーフィルターをつけて塵挨を最低限に抑えるか、排気を室外に出してしまう工夫が大切。
はたきがけより水拭きで。
エアコンもよく掃除。
カーテンは洗えるものを。
照明器具、本棚などのほこりも忘れずに
じゅうたん、カーペットより板張りかPタイル
ぬいぐるみはしまっちゃう。
鉢植えは外に出す。
患児のまわりでのタバコは厳禁。
ペットは絶対駄目
布団やマットレスは塵挨やダニの通らないカバーをかけたり、合成繊維などの洗濯が可能な素材とし、定期的に(月1回)洗濯する。ダニを殺すために55℃以上の温度で洗うことが勧められます。
枕はそばがらなどはダニの巣になりやすいのでプラスチックパイプの入ったものが理想的です。
Q 喘息の治療にはどのような方法があるのでしょうか?
A 主な治療法としては以下の通りです。
1 原因の除去(住環境の整備)
2 薬物療法
気管支拡張剤(テオフィリン製剤・β2刺激薬)
ステロイド薬
抗アレルギー剤、漢方薬
痰切りの薬
抗生物質(感染があるとき)
3 鍛錬療法
Q 最新の喘息治療について教えて下さい。
A 「気道の慢性炎症性障害」であるとの認識に立って新しい治療のガイドラインが提唱されました。(表を参照して下さい。)その治療の中心は早期からの吸入ステロイドの導入です。従来では、欧米では吸入薬が治療の中心であったのに対して、わが国では経口薬(β2刺激薬、テオフィリン製剤、抗アレルギー薬)が中心でした。最近では日本でも従来からの治療に加えて早期からの吸入ステロイドの導入が勧められて効果が上がっています。新しい治療の具体的な方法については次の解説をお読み下さい。
Q 薬の種類と正しい使い方、副作用について教えて下さい。

A 以下の薬があります。

テオフィリン製剤
 テオドール、テオロング、スロービット、ユニフィルなどの商品があります。非常に有効な薬で特に乳幼児では治療の第一選択になるものです。通常量ではほとんど副作用はありませんのでご安心下さい。ただしちょっとした副作用として薬の感受性の強い方に不眠が起こることがあります。この程度のものはやむをえないと考えています。
 血中濃度が高すぎると吐き気や心臓がどきどきしたりしますが、普通に投薬する量で起こることはまずありません。ただし、喘息のコントロールが悪く通常量より多くを投薬せざるを得ぬ場合に起こることがあり、この場合は、血中濃度をモニターしながら注意深く投薬する必要があります。

β2刺激薬
 経口または吸入のβ2刺激薬があります。経口薬は他の薬と一緒に出されることが多く、ある程度発作の改善に有効です。副作用としては、感受性の強い方ですと、手がふるえたり、心臓がドキドキしたり、ときに頭痛が出現します。吸入も発作が起こってきたときに、その改善に有効ですが、数時間しか薬が効かないため、夜間になって、吸入薬の効果が切れてきた頃、かえって悪化する場合があります。吸入薬はあくまで、経口のテオフィリン製剤やβ2刺激剤の飲み始めで、吸収され効果が出現するまでの数時間をつなぐための一時しのぎととらえた方がよいと思います。このため吸入は少なくとも1晩に2回程度として、それ以上使用しても効かない場合は速やかに病院で診てもらう必要があります。

ステロイド(副腎皮質ホルモン)
 ステロイド薬は、喘息治療のための抗炎症薬として現在最も有効な薬です。しかし、従来の飲み薬としてのステロイド薬は数多くの副作用がみられ、このため、いかにしてステロイド依存から離脱するかは近年の喘息治療の課題の一つであったほどです。
 これに対して吸入ステロイド薬は、重篤な副作用の出現がほとんどなく非常に有効であることが近年再認識されてきております。したがって非常に軽い喘息の方にも積極的にステロイドの吸入を行うようになってきています。
 しいて吸入ステロイドの副作用について申し上げますと、口の中にカビが生えやすくなったり、嗄声、刺激による咳などがあります。これを予防するため吸入後にうがいをしたり、上手に吸入ができない人にはスペーサー(吸入補助具)を用います。通常の使用量では全身の副作用は全くありません。

抗アレルギー剤、漢方薬
アレルギーを抑え体質を改善する効果があります。

 軽症は短時間(1時間以内)の軽い発作が週2回までで、その間には症状がないものです。普段の投薬は症状がある場合にのみβ2刺激薬を吸入するか、経口気管支拡張剤の頓用で対処します。また少量の吸入ステロイド薬あるいは抗アレルギー薬を連続投与してもよく、これは気道炎症を早期に治療すればよりよい結果が得られるという考えからです。

喘息発作がない時期(落ち着いているとき)の重症度別薬剤管理

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Q 発作が起きたときの対処の仕方を教えて下さい。

A  以下のことをしてあげて下さい。

発作の原因、誘因から遠ざかる
 アレルゲンがあれば、それを遠ざけることが必要です。布団の上げ下ろし中に急に咳込んできたり、タバコの煙が充満している部屋で咳込んできたら部屋から直ちに出ましょう。猫を抱いて発作が起きたら、猫をすぐに体から離します。

腹式呼吸をする
アレルゲンから遠ざかったら、ゆっくり落ち着いて腹式呼吸をさせます。3〜4才になればできるようになります。タイミングを体で覚えるには時間がかかり、急にやろうと思ってもなかなかできませんから、発作のないときから積極的に練習しておきましょう。

「腹式呼吸の練習」
@よくはなをかみ、鼻が詰まっていないことを確かめる。
Aおなかをしめつける服装をとき、楽な薄着にしてあおむけに寝かせる。
Bお母さんが横に座り、片手をこどもの胸に、もう片方をおなかの上におく。
C口を閉じて鼻からゆっくり息を吸い、おなかをふくらませるようにして吸い込ませる。それから口をすぼませ、ゆっくり吐き出させる。吐き出すとき、お母さんは、おなかの上に置いた手で静かにおなかを押しつけながら、呼気を手伝う。

冷たい水をコップに十分飲ませ、痰出しをさせる。
 これには二つの効果があります。一つは冷水を飲むとその冷たさで自律神経の中の交感神経を目覚めさせ、発作を落ち着かせるという効果。(水は飲めば飲むほどいいですが、あまり飲みすぎるとおなかが痛くなることがあるので、その意味からは冷水よりも湯冷ましか少し温めのお番茶でも結構です。体調にあわせましょう。) そしてもう一つは、痰の切れをよくする効果。「水は最良の去痰剤」と言えるほどです。胸に耳をあてて「ヒューヒュー」と乾いた笛の音が聞こえるよりも聞き苦しくても「ゼロゼロ」と痰が響く湿った呼吸音の方が呼吸は楽なはずです。

上半身を起こして背中をたたいてあげる。
 夜中の発作で、寝ているときなら、静かに上半身を立ててしゃがませ、背中をたたいたりさすったりしてあげると、痰が出てずいぶん楽になるはずです。
 年長児や大人では、一番苦しいときにはあごを出して手を膝の上においているもので、こうすると楽になることを体感しているのです。(これを起座呼吸といいます。)それを助ける意味で、ふとんを丸めて、背もたれのようにしてあげると楽になります。

咳止めの薬は飲んではいけません。
 発作のとき、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)と一緒にコンコンと咳込むことが多いのですが、このとき、いわゆる咳止めを飲んでしまうと、かえって喘鳴を悪化させてしまいます。これは気管支に詰まっている痰がますます切れにくくするためです。喘鳴が強いとき自分の判断で市販の咳止め等を飲むのは控えましょう。

薬(テオフィリン製剤またはβ2刺激剤)の飲み忘れをしていないかチェックする。忘れていた場合は、飲む。

β2刺激剤の吸入を試みる。ただし乱用は絶対駄目です! 医師から指示された回数は必ず守りましょう。それ以上回数を増やしても効果がないばかりか、かえって副作用がでます。

以上を試みても、発作の改善がないときは、深夜でも結構ですから医師連絡をして下さい。

Q ふだんから喘息があるといわれています。夕方から咳込みがひどくなってきました。市販の咳止めを飲んでもよいでしょうか?

A 診察をしなければはっきりとわかりませんが、喘鳴があるか否かがポイントです。胸に耳をあてるとヒューヒューあるいはゼーゼーいっているようなら喘息発作と考えられます。このときは、咳止めを飲むとかえって痰が胸の中にこもり喘息発作がひどくなるので注意が必要です。単に風邪をひいて咳止めだけでいい場合と喘息発作で気管支拡張剤を飲む必要がある場合とのおおよその目安は以下の通りです。

  たんなる風邪 喘息発作
症状 コンコン ヒューヒュー、ゼーゼー
原因 感染によるのどの刺激 炎症および喀痰による気管支の狭窄
対処 咳止めを飲む @ 気管支拡張剤
A 痰切りの薬
B 水分を十分飲み痰の喀出につとめる(咳止めは駄目!)
 
Q 喘息の場合、特に「かかりつけ医」が必要といわれるのはどうしてですか?
A 一口に喘息といってもその病態は患者さん一人一人によってとても違います。同じ薬でも効き目は 人様々です。また喘息はとても精神面の影響を受けやすい病気です。喘息発作がひどく治療のため病院の門をくぐったとたん安心感から発作が驚くほど軽減することはしばしば経験されますね。このため精神面や親の接し方も含めた普段の生活態度、生活環境、薬の服薬状況、その患者さんへの薬の効き方、どれをとっても注意深い毎日の観察ときめの細かい指導が大切です。
 また夜間に喘息の発作はつきものですが、夜間にあわてて救急病院を受診し吸入を繰り返す人がおられますが、普段の患者さんの様子を知らない当直医にとっては、カルテに記載してある前回の治療を繰り返すのがせきのやまでしょう。これは安全域の非常に狭いテオフィリン製剤の過剰投与につながることが多くとても危険なことです。
 以上の二つの理由で日頃から 夜間も診てもらえるようなかかりつけ医を持っていることは喘息の場合特に大切です。