アトピー性皮膚炎といわれたら

 アトピー性皮膚炎とはどのような皮膚炎のことをいうのですか?

 アトピー性皮膚炎とはアトピー素因を持つ人に起こる慢性の湿疹のことです。皮膚においては、アレルゲン(アレルギーを起こす原因物質、すなわち抗原)は皮膚表面に接触し、皮膚の中に侵入してきてアレルギー反応を起こすこともありますし、胃腸から吸収されたアレルゲンが血液の流れにのって皮膚に到達し、そこでアレルギー反応を起こすこともあります。
 典型的な経過をとる場合,まず乳児期に顔面,頭部にかゆみの強い赤い発疹が現れ,かきこわすと汁が出てきて、やがてこのかゆい発疹は全身の皮膚に広がり,悪化と改善の波をくりかえすようになります。小児期になると,ひじの内側,ひざの裏などにかゆみの強い米粒大の発疹が現れ,それが長年にわたり持続します。

 アトピー性皮膚炎の自然経過はどのようなものですか?
 4割の人は生後6ヶ月までに発病します。少なくとも7割の人は2才までには発病します。
 生まれて1ヶ月から3ヶ月頃に生じる顔面の湿疹の一部のものはアトピー性皮膚炎ですが、脂漏性湿疹や接触性皮膚炎、汗もなど他の湿疹もあります。ですからこの頃の湿疹をアトピー性皮膚炎と診断するのは慎重でなければなりません。それは、何年も続くこの病気との戦いの幕開けとなるに他ならないからです。
 アトピー性皮膚炎はある程度治療を続けながら経過を見ていくと徐々に再発しなくなり、ついには消失して治っていきます。小学校入学時には3人に1人の割で軽快し10才くらいには半分、16才頃には90%が軽快します。しかしその反面、あとの10%は大人にまで持ち越してしまいます。
 「顔や頭にぶつぶつ。うちの子はアトピー性皮膚炎でしょうか?」
 生後2〜3ヶ月の赤ちゃんを連れたお母さまがよく来院され尋ねられます。この時期にはときとして脂漏性湿疹との鑑別が難しく生後4ヶ月くらいまで様子をみていただき、それから診断するようにしています。

 アトピー性皮膚炎の治療について教えて下さい。

 

かゆみを抑える治療

 まずは、かゆみなどの症状を抑えるのが治療の第一歩です。アトピー性皮膚炎では、一番つらいのが「かゆみ」です。あまりにかゆくて、ついつい掻きむしってしまいますが、掻くと皮膚の組織が壊され、症状がどんどん悪化してしまいます。これを防ぐ意味で外用剤(塗り薬)をつけたり、かゆみ止めの飲み薬(抗ヒスタミン剤)を飲みます。

 

 

 

 

 アトピー性皮膚炎の原因がはっきりした場合は、何といっても原因療法が必要です。

食事アレルギーの治療

 乳児期の食事アレルギーが原因なら、そのアレルギーを起こす原因となる食事(卵白、牛乳、大豆など)を赤ちゃんに与えないようにしましょう。(除去食と代替品 ⇒ クリック

 完全に除去するかどうかは、赤ちゃんの症状によって決めます。程度が軽ければ量を減らしたり、加工食品ならOKのこともありますので、医師に相談して下さい。完全除去の場合に大事なことは、赤ちゃんが栄養不足にならないように十分気をつけることです。最近はアレルギー用食品が簡単に手にはいるようになりました。→ 群馬大学前薬局(〒371 群馬県前橋市昭和町3-11-13 TEL 0272-31-9635)

 またミルクアレルギーがはっきりしている場合はMA-1ミルクなどを使用します。

 除去食療法を続けながら、症状の出方がだんだん軽くなっているかどうかをチェックする一方、半年に一度くらいのわりで血液検査を受けましょう。その結果、もう食べても大丈夫と医師にいわれれば加工したものから少しずつ食べさせ始めます。
どのくらいの期間除去すればよいかは症状の重さや検査結果によりますが、多くは1才過ぎると解除されます。遅くとも3〜5才頃には解除できるでしょう。

ダニアレルギーの治療

 生後半年を過ぎると、食事アレルギーに加えてダニも原因や悪化因子になっている場合が多いのでダニ駆除は必須です。
( ダニ駆除の仕方 ⇒ クリック )

抗アレルギー剤の使用

 またアレルギーがはっきりしている場合に限り、抗アレルギー剤を使用します。

漢方薬の使用

 また漢方薬も有効な場合があります。しかしかゆみや湿疹をただちに抑える力はなく、ステロイド剤で症状を抑えた後、補助的な治療法として用いられることがあります。ただし世間一般に「漢方薬は副作用がないから安心」といわれますが、これは間違いで、アレルギー性の副作用として湿疹がよく起こりますから注意して下さい。
 他に、ストレスからの解放を図る心理療法や海水浴療法も試みられています。

食事療法の新しい試み

 また最近の新しい試みとして食用油で体質改善をする方法が研究され、ある程度の成果が出てきています。これはリノール酸を過剰にとりすぎる一方α-リノレン酸摂取が不足しているためアレルギー症状が出現してくるという考え方で、このためリノール酸の摂取を控え、α-リノレン酸を積極的にとる食事療法を行います。

民間療法について

 何とかして治したいという切実な気持ちから民間療法にすがる場合もあるようですが、これらがはたして有効なのか無効なのか私にはわかりません。ただアトピー性皮膚炎を専門とする多くの科学者が多大な労力をかけてもまだ確立できない治療法を、そう簡単に発見できるとは思いません。大変高価な「くすり」を購入されておられる方をみますと私たち医師の無力さを実感します。

 外用剤(塗り薬)の正しい塗り方を教えて下さい。

 ある程度ひどいアトピー性皮膚炎にはステロイド外用剤を使用します。これで症状が改善してきたら、もっと弱いステロイド外用剤に変えたり、非ステロイド系の抗炎症剤にします。乾燥した肌には保湿成分の入った外用剤を使用します。

ステロイド外用剤
 ステロイド外用剤は使用開始時は強めのものを少なくとも1日2回(起床時・入浴時)から始めて下さい。必ず効果があると思います。問題は、改善すると直ちに塗るのをやめるお母さん方がとても多く、「あの薬はちっとも効かなかった!」などと評価されることが多々あります。症状が改善した場合には、それ相応の軽いものに変更する必要があることを覚えておいて下さい。また、何しろアトピー性皮膚炎は長い病気です。どんな薬でも長期に塗る必要があることも ご理解下さい。
 軽い薬に塗り替えてから再び悪化しても大丈夫。そのときは、また強めの薬に替えてくださって結構です。交互に塗り替えることで長期に、効果的に、安心して使用できます。
 また、汚れを落とさない顔に化粧品を使うことはしないお母さん方が、アトピー性皮膚炎をもつ児の身体の汚れを十分に落とさずに外用剤をベタベタ塗ることは平気で行っておられます。刺激の少ない石鹸で毎日お風呂できれいに洗ってあげてから外用剤を塗るようにしましょう。

非ステロイド剤
 非ステロイド剤はステロイド剤にくらべ炎症を抑える力は弱いです。よくステロイドの副作用が怖いと、症状が強いくせに非ステロイド剤のみ塗り、治らないとおっしゃる方がおられます。これは明らかに塗り方に問題があるのです。非ステロイド剤の副作用としては かぶれや軽い刺激症状が出ることがあります。

乾燥した肌に保湿剤入りのクリーム
 尿素やスクワランなどの保湿成分に加えクロタミトン(鎮痒剤)、ジフェンヒドラミン(抗ヒスタミン剤)、ビタミンEなどを加えたクリームが、乾燥した肌で、風呂上がりや布団に入って体温が暖まったとき痒い方に用いると効果的です。上記のステロイド剤や非ステロイド剤と併用しても結構です。(*^_^*)

 

アトピー性皮膚炎の軟膏の正しい塗り方

                       ⇒ クリック してね!

 ( 写真入りで、くわしく載ってますよ。ぜひ見て下さい。)

 

 
 近所の奥さんが「副腎皮質ホルモン」は怖いと言っていましたが・・

 外用剤にステロイド(=副腎皮質ホルモン)が入っていると お母さん方に話すと

「えっ! それでは副作用が出るのですね。」

などという言葉が即座に返ってきます。皮膚科さんでは 多くの皮膚治療にステロイドが使用されますから、お母さん方の頭っからのステロイド恐怖症のために十分な治療ができないと嘆いておられます。最近、金大の皮膚科教授の「アトピービジネス」という本が出たのをご存知のお母さん方も多いでしょう。

 当院では、使用していただく薬には、はっきりと名前がついています。これをつけておくことにより、薬に対する理解が深まることと、かりに他院を受診されたときでも何を塗ったのかはっきりわかるようにとの考えからです。

 ステロイド外用剤を長期に連用するときの副作用について述べてみましょう。

 顔に塗ったときは、ほっぺの毛細血管が目立つようになることと、ときに皮膚が少し萎縮してしわしわになります。これを避けるため顔は控えめなお薬にしています。

 体では、バイ菌感染(たとえば「とびひ」)の皮膚に知らずに塗ったりすると、バイ菌感染がひどくなります。カビのはえた所(主におむつのあたっている殿部、外陰部)に塗るとカビがパッと広がり「おむつかぶれ」がひどくなったとあわてて受診されることはよくあります。

 また何年も長期に塗ると少し体毛が濃くなるようです。色素沈着(皮膚が黒くなる)を起こすとも言われていますが、アトピー性皮膚炎の治療をしないで放置しておくと慢性の炎症が続いて、とてもひどい色素沈着を起こしますので、これに比べるとステロイドの影響は微々たるものと考えていいでしょう。

 以上述べました、いずれの副作用も薬をやめれば治るものですし、重篤なものではありません。

 具体的になるべくわかりやすい言葉で説明をしてみましたが、如何でしょうか。ステロイドの副作用の漠然とした理解のために今まで毛嫌いし食べず嫌いになっておられる方にも「使用方法さえ正しければ悪くないな。」と思っていただけたでしょうか?

 アトピー性皮膚炎の飲み薬について教えて下さい。

 飲み薬には以下のものがあります。

抗ヒスタミン薬
 アトピー性皮膚炎の患者さんは特に寝る前に痒みが強く、寝ているときに無意識に掻きむしり下着が血だらけになることも珍しくありません。このような状態のとき寝る前に痒みを抑えることと傾眠を目的として飲んでいただくことがあります。

抗アレルギー薬
 アトピーはアレルギーが関係しているわけですので、抗アレルギー剤の使用は理にかなっております。ただし、あくまでも外用薬の補助的な併用薬で、単独ではうまくコントロールはできないようです。

漢方薬
 幼児では飲みにくいので出しませんが、大きなお子さまの場合には飲んでいただくことがあります。薬があえば、かなりの効果を示すことがあります。

 まだ一度も人工ミルクを飲ませたり、離乳食を食べさせたりしたことがないのに食事アレルギー?
 母乳しか飲んでいない、まだ離乳食の始まっていない赤ちゃんでもアトピー性皮膚炎になります。これはお母さんの母乳に原因があります。授乳中のお母さんがアレルギーを起こしやすい食べ物を食べると、その食べ物が母乳を通じて赤ちゃんの体に入り、アレルギーを引き起こすのです。赤ちゃんに食事アレルギーが証明されたら、授乳中のお母さんの食事からその原因となる卵や牛乳を制限します。
 アトピーで食事制限をしていたのに1才過ぎから制限が解除できるのはなぜですか?
 食事アレルギーは、ある特定のものを食べて、それが腸から吸収されて起こるものです。乳児期の赤ちゃんは大人と違ってまだ十分、消化能力がありません。このため未消化の蛋白をそのまま吸収しようとします。これがアレルギーを引き起こすのです。年令とともに消化能力がよくなってきてアレルギーを引き起こさなくなります。
 このため1才過ぎ、遅くとも3〜5才頃には制限が解除できることが多いのです。
 父親や母親がアトピー体質です。生まれてくる赤ちゃんもアトピーになるか心配です。どうしたらよいでしょうか?
 赤ちゃんがおなかにいるときからアトピー対策なんてと思われるかもしれませんがアトピー体質は遺伝するので、生まれてくる赤ちゃんにアトピー性疾患が出る可能性が高いのです。またご兄弟もアトピー性疾患をお持ちでしたら、是非、妊娠中から以下のように食生活に気をつけていただきたいものです。
@ バランスよく食べる。栄養があるからと同じものばかり食べてはいけません。今日は、鶏肉なら、明日は魚、次は牛肉と、同じタンパク質でもいろいろな食品をとるようにしましょう。
A 牛乳は赤ちゃんやお母さん自身のカルシウムをとるために大切なものですが、がぶ飲みはいけません。最近はお母さん用のペプチドミルク、例えば森永乳業の「Eお母さん」などが出てきましたのでこれを使われるといいと思います。
B 卵はなるべく食べないでください。
C インスタント食品は食べないでください。
 いざ、かわいい赤ちゃんが産まれてきたら、何としてもアトピーにはしたくないもの。この頃は、ミルク(牛乳)アレルギーが問題になりやすいので、これを避けるためにできるだけ母乳で育てた方がよいでしょう。このときも@〜Cの注意は必要です。もしも人工ミルクを使われるのでしたら牛乳タンパク質を消化して吸収しやすくしてあるペプチドミルク、例えば「E赤ちゃん」がいいでしょう。ただし、すでにミルクアレルギーのIgE抗体ができている場合は「MA-1ミルク」のような特殊ミルクに変更する必要があります。
  「アトピー性皮膚炎」で、はっきりアレルギー(詳しくはアトピー、すなわち遺伝性のIgE関連アレルギーの意味)を証明できない場合はどうしたらよいのですか?
 おっしゃるように見た目には明らかな「アトピー性皮膚炎」と思われる方でも、検査では、残念ながら高IgE値、好酸球増多、特異IgE抗体を証明できない人がおられます。「アトピー性皮膚炎」というからには、アトピー性疾患の範疇に入るべきものと思われて当然ですが、実はアトピー性疾患に含まれないものもあるようです。これは本来の意味でのアトピー性皮膚炎と呼ぶのは適切ではありません。冒頭で述べました「いわゆるアトピー性皮膚炎」と呼ぶべきでしょう。
 残念ながら、現在のところ、その発症メカニズムはわかっておりません。皮脂や発汗、血管反応などの皮膚生理機能の異常がしばしば見られ、皮膚の細菌叢も皮膚炎の増悪因子になります。また掻くことにより皮膚症状が悪化するなどの諸因子がありますが決め手は見つかっておりません。このような方には、外用剤の塗布と同時に皮膚炎を悪化させる要因を生活環境の中からいかに減少させるかという点が治療の中心となります。