アトピー性皮膚炎の外用剤の塗り方(総論)

(各論)
実際の乳児のアトピー性皮膚炎の重症度別対処の仕方 ⇒ クリック

     幼児および小学生の重症度別対処の仕方    ⇒ クリック

 アトピー性皮膚炎の治療にはステロイドホルモンを含む軟膏が必要になります。ステロイド軟膏には何段階もの強さのものがあるため、湿疹の場所や程度によってどのくらいのステロイドを使用するかを判断するのは難しいものです。ステロイドの作用が強いほどアトピーを抑える力が強いのですが、その反面副作用が現れやすくなります。軟膏を塗るのは毎日のことなので、軟膏についてのきちんとした知識を持つ必要があります。

塗り方の原則みたいなものってあるの?

実際の塗り方とか回数は?

ステロイド軟膏の副作用について教えて

ステロイド軟膏にはどんな種類があるの?

湿疹の程度でどのように軟膏を使い分けすればいいの?

    @乾燥性湿疹 A乾燥性湿疹でかゆみの伴うもの

    B赤みがあり、軽度の痒みを伴う湿疹

    C赤みが強く、かきむしっている湿疹

    D滲出液が出ていたり膿を持っているとき

最後に独り言・・(^_^;)

塗り方の原則みたいなものってあるの?

 ステロイドの軟膏は十分な効果を発揮できる強さで、できるだけ弱いものを、短期間に使用するのが原則です。弱すぎる軟膏を塗っていても効果が出ず、副作用しか見られません。その反面、強すぎる軟膏を塗れば治療は簡単ですが、必要以上に強いステロイドを塗ることになり、いらない副作用が出現するということになります。
実際の塗り方とか回数は?
 軟膏を塗る時は、良く手を洗って、薄く引き延ばすようにして塗って下さい。ごしごしとこするように塗りつけるとその刺激でかえって湿疹を悪化させることがあります。塗る回数は1日に2回、ないし3回で、朝と昼食後、お風呂上りに塗るように決めておけば良いでしょう。
ステロイド軟膏の副作用について教えて

 どんな薬でもそうですが、ステロイドの軟膏にも副作用があります。ただし一般的にステロイド軟膏の副作用は過剰に考えられていますが、使い方を誤らない限り、副作用は比較的少なく、どちらかというと安全な薬であると言えます。ヒステリックなジャーナリズムやアトピービジネスと呼ばれる民間療法の中にはひどいものもあり、中にはステロイド軟膏を目の敵にして攻撃するものがあります。そういった民間療法を信じた多くの人々がステロイドを急に止めることにより、アトピーが急速に悪化し、不幸な目にあっています。全国のアトピーの専門病院で、入院治療まで必要になった患者の多くは、質の悪い民間療法によりアトピーが急激に悪化した患者さんなのです。
 ステロイド軟膏の副作用のほとんどは局所的なもので、指示通りの薬を塗っているのなら全身的な副作用を起こすことはまずないと言えるでしょう。ただし局所的な副作用は出現することがありますので、次に挙げておきます。 

皮膚の感染症の悪化
 実際にステロイド軟膏を使用する時に最も問題になるのは、間違った使用による皮膚の感染症の悪化でしょう。湿疹の中にはアレルギーによるものだけで無く、細菌やカビの感染により悪化しているものがあります。こういった湿疹ではステロイド軟膏のみを塗るとかえって皮疹が悪化します。これはステロイドの作用のひとつに免疫作用を弱める働きがあり、細菌やカビの活動が活発になるからです。
 このようにステロイドは諸刃の剣であり、使い方を誤るとかえって湿疹を悪化させてしまうことになるのです。
 逆にアレルギーの湿疹に正しく使用すれば皮膚の状態を正常にし、皮膚の抵抗力を強めることができます。

    ステロイド長期連用による皮膚の変化
     ステロイドを長期に連用すると皮膚の毛細血管が拡張して赤く見えたり、皮膚が薄くなったり、また色素沈着と呼ぶ黒ずんだ皮膚になることがあります。こういった症状は弱いステロイドでも長期に使用することにより出現することがあり、皮膚所見が改善すれば速やかにステロイドを減量し、できれば離脱するべきでしょう。ステロイド軟膏を止めることにより徐々に正常の皮膚に戻ります。
     例えば乳幼児の顔にリンデロン(クラスV)程度のステロイドを10日以上塗りつづけると、ほとんどの子供さんでこういった症状が見られます。

    全身症状
     ステロイドの軟膏で全身症状が出る子供はまずいませんが、ステロイドを内服すると様々な症状が出現します。体の抵抗力が落ちたり、顔やお腹に異常に脂肪がついたり、血圧が上がったりといった症状が出ることがあります。アトピーの治療でステロイドを内服することはほとんどありませんが、腎炎や膠原病、重症の喘息ではステロイドの内服が必要になることがあります。こういった病気の場合は放置すると生命に関わるので、治療効果と副作用のバランスを考えてもステロイドの内服をせざるを得ないというのが現状です。

ステロイド軟膏にはどんな種類があるの?

 ステロイドの軟膏は強い順からT群(Strongest)〜X群(weak)に分けられます。小児のアトピー性皮膚炎に使用する軟膏は主にV群(Strong)、W群(Medium)に属する中等度から弱い目の軟膏を使用します。小児では皮膚の吸収が良く、ステロイドの効果が現れやすいため、弱いステロイド軟膏でも効果が期待できるからです。

      (軟膏の種類についての詳しい表 ⇒ クリック してね。)

湿疹の程度でどのように軟膏を使い分けすればいいの?

 アトピーでは皮膚症状を見ながらどのような軟膏を塗るか決定するのです。ただしアトピーだからといって全ての湿疹にステロイドを使用する必要は無く、例えば皮膚が乾燥しているだけで、痒みのない状態では保湿剤を塗ってスキンケアするだけで十分でしょう。赤みが出てきて、痒みが出ている状態では、ステロイド非ステロイドの抗炎症剤を使用して早い目に炎症を止めてあげるようにしましょう。

 次にあげるのはアトピーの湿疹の程度と、どの軟膏を使用するかの指針です。ただし、首や顔ではこの指針よりワンランク弱い軟膏を使用します。

@乾燥性湿疹

 下図の様に皮膚の水分、脂肪分が無くなってしまい、皮膚がかさかさした状態です。こういった状態の皮膚では正常の抵抗力は弱く、感染に弱かったり、乾燥すると痒みがでてかきむしったりします。皮膚の脂肪分や水分を補充してあげるような軟膏を塗って下さい。

   (皮膚が乾燥し、かさかさになっている。痒みはない。)

(適切な軟膏)(^o^)

保湿クリーム(当院特製)
ワセリン(アズノール、プロペト)
尿素軟膏(ケラチナミン、パスタロン)
ビタミン
A含有軟膏(ザーネ)

 
A乾燥性湿疹で痒みを伴うもの

 皮膚が乾燥し、痒みを伴っているときには、非ステロイドの抗炎症剤や抗ヒスタミン剤、弱いステロイドをワセリンと混合させて塗ります。

  
(皮膚は乾燥し、掻いてひっかき傷ができている。)

(適切な軟膏)(^o^)

・抗ヒスタミン剤(オイラックス)
非ステロイド抗炎症剤(アンダーム)
W群ステロイド軟膏(ロコイド、ケナコルト、キンダーベート)

 
B赤みがあり、軽度の痒みを伴う湿疹

 皮膚の炎症が強くなると赤みをおびてきます。痒みがあるなら弱いステロイドの軟膏を塗るようにしましょう。

(適切な軟膏)(^o^)

W群ステロイド軟膏(ケナコルト、キンダーベート)

V群ステロイド軟膏(リンデロン、フルコート)
 

 
C赤みが強く、かきむしっている湿疹

 痒みが強く、掻くのを我慢できない時は、掻く事による物理的な刺激があり、爪からの二次感染も起こしやすいため、湿疹が急激に悪くなることが考えられます。少し強い目のステロイト軟膏で処置することにより、早期に痒みを止めてあげるようにしましょう。ただし2〜3日の間、軟膏を塗って、痒みが収まれば速やかにステロイドを減量しましょう。

  
(掻きむしって一部の皮膚が破れている)

(適切な軟膏)(^o^)

V群ステロイド軟膏(リンデロン、フルコート)

U群ステロイド軟膏(マイザー、ネリゾナ)

 
D滲出液が出ていたり、膿を持っているとき
 掻いて二次感染を起こすと、滲出液と呼ぶ、黄色い液体が湿疹から流れ出すことがあります。このようなときは細菌の感染による湿疹の悪化が疑われます。ステロイド軟膏を塗るだけでは皮膚の抵抗力を減らしてしまうので、細菌感染がなかなか治癒しないということになります。こういったときは抗生物質が含まれる軟膏を塗って、細菌感染を抑えるようにします。

  (浸出液が固まって、厚い皮の様になっている。感染により正常な皮膚構造が保た        れなくなっている。)

(適切な軟膏)(^o^)

抗生物質含有軟膏(リンデロンVG)

 
最後に独り言・・(^_^;)

 ステロイドの軟膏はアトピーの皮膚症状を改善しますが、アトピー性皮膚炎そのものを治す力はなく、あくまで対症療法であることを理解して下さい。

 しかし、アトピーを治すのはこういった対症療法を長く続けて皮膚症状を悪化させないようにするのが一番の近道なのです。

 アトピーのお子さんをもつお母さま方にありがちなのですが、安易に治す道を求めて、次々と病院を転々としたり、怪しげな民間療法に走ったりして、すっかり混乱してしまっている人がいます。

 アトピーの治療に特別というのはありません。地道に、スキンケアをする以外には方法はないと思います。ただしこういった地道な方法が最もお子さまに負担をかけずに、まちがいなく治癒の方向に向かって行けるもの思っております。

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