はじめに

 外来へよく湿疹のある お子さんを連れてお母さま方が来られます。開口一番、

「うちの子はアトピー(アトピー性皮膚炎の略)ですか? 卵は食べさせない方がいいんでしょ〜ぉ?」

「ステロイド軟膏は副作用があるから駄目なんでしょ〜ぉ?」

 矢継ぎ早に質問してきます。

 私はいつも答えに窮します。

「ええと、アトピーは何やら難しい病気で、むにゃむにゃむにゃ・・・」

 私が何とか最新の学説も含めて一所懸命説明しホッと一息ついた矢先、お母さまの口から不安げに次のような言葉がぼそり。

「やっぱり、皮膚科に行った方がよいですかぁ〜?」
            
 お母さんは頼りなげな私の様子をみて、この医者は薮でよく診断できないらしいと思われるようです。

 一方、態度を変えて、

「ええ、まさしくアトピーですよ。」

胸をはって言い切るとお母さんは、さも満足したように納得してくれます。

「あっ、やっぱり、このセンセはアトピーの専門家なんだぁ〜。」

 

  閑話休題 アトピーについては随分混乱しています!

 まず言葉の問題ですが、「アトピー」という場合は、あとで詳しく述べますが喘息やアレルギー性鼻炎も含めた遺伝素因によるIgE関連アレルギーの意味で使用する場合とただ単にアトピー性皮膚炎のことを略していう場合があります。

 その上、アトピー性皮膚炎と一口に言っても、上記の遺伝素因によるIgE関連アレルギーによる正真正銘のアトピー性皮膚炎とアレルギーとは無関係と考えられる原因不明の慢性湿疹のことを指す場合があるのです! 
 後者は本来アトピーではないから「非アトピー性皮膚炎」と呼ぶべきですが。特に皮膚科さんではこれも立派にアトピー性皮膚炎で通じます。いや、むしろ皮膚科の先生の中には、アトピー性皮膚炎はアトピーと一切関係ないと豪語している人もいるくらいです。

 本稿ではアトピーを遺伝素因によるIgE関連アレルギーの意味で使用します。

 またこれによって引き起こされる皮膚炎をアトピー性皮膚炎と略さずにいいます。またアトピーが証明されないけれど、アトピー性皮膚炎とよく似た臨床像をとる慢性の湿疹は「いわゆるアトピー性皮膚炎」と呼び、区別することにしましょう。

 まとめ
@ アトピー:遺伝素因によるIgE関連アレルギー
A アトピー性皮膚炎:アトピーが証明された皮膚炎
B 「いわゆるアトピー性皮膚炎」:
  アトピーが証明されないがよく似た臨床像を呈する慢性湿疹
 アトピー性皮膚炎専門医は皮膚科医か?

 アトピー性皮膚炎は皮膚の病気だから皮膚科が専門と考え、赤ちゃんを連れて行かれるお母さん方もおられます。確かに皮膚病という意味では高度な専門家ですが、こと赤ちゃんのアトピー性皮膚炎に関しては必ずしもそうとは言えません。すべての皮膚科の先生がそうだとは申しませんが、軟膏処置だけで終わったり、アレルギーを証明しないで抗アレルギー剤を漫然と投与されたりしているのを見ていると非常に残念に思います。

 この時期は食物アレルギーが非常に多く、離乳食指導はとても大切です。また離乳食を指導する上でアレルギー検査をすることは欠かせません。食物アレルギーが証明された赤ちゃんが適切な食事指導をうけることで皮膚炎がとてもよくなるばかりでなく、恐ろしいアレルギー・マーチ(アトピー性皮膚炎→喘息→アレルギー性鼻炎)へと進む、その第一歩をくい止めているのだと お考えいただければ、事の重大さがわかっていただけると思います。今回、日常の診療で患者さんに お伝えしたいことをまとめてみました。

 専門的な立場から少しでも お手伝いができたらと思っております。